昭和10（1935）年生まれの美輪明弘さん。舞台人としての経歴も長く、一度その舞台を見たいと思っていた。最近はＮＨＫ大河ドラマ「義経」に出演して妖しい存在感を発揮したり、スピリチュアルな世界の案内人になり、一体どこの人なのか？と超越した美輪ワールドを展開している。その風貌から、なんだかいつまでも死なない気がする。めざせ森光子、と思うが、とりあえずお元気なうちにと願っていたところ、舞台の中でもぜひ見たかった「愛の賛歌〜エディット・ピアフ物語」が愛知厚生年金会館にやってきた。
　美輪さんの作・演出・主演で27年前に初演され、配役を変え何度も再演されている。パリの路上から世界的な歌手になったエディット・ピアフ（1915年生まれ）の愛にあふれた人生を、数え切れない恋愛遍歴の中でも最愛の人との物語が主軸に描かれる。
　その一人、妻子ある世界チャンピオンのボクサーを突然の飛行機事故で亡くすという悲劇は痛ましい。 ピアフが彼との恋愛を綴った歌が、日本でもポピュラーな『愛の賛歌』だ。越路吹雪のために書かれた詩は「〜あなたの燃える手で私を抱きしめて、ただ二人だけで生きていたいの〜」というものだが、ピアフが作った詩とは異なる。
　ボクサーの彼の死を知ってすぐ舞台に立つというシーン、エレガンスなドレスに身を包んだ美輪さんは、原詩を日本語で直訳した歌詞をまず語り、その後、フランス語で歌い始めた。愛するよろこびにあふれた歌を哀しみを湛えて歌い上げていくその姿、歌声に、金縛りにあった･･･　気がした。そして涙があふれてきた。この世のものとは思えない神々しさ、圧倒的な美しさを宿した美輪さん、あのオーラはただもんじゃなかった。「観音様のようだったね。浄化されたよ」と友人。魂を揺さぶられる歌だった。忘れていたけど美輪さんの本職？はシャンソン歌手なのだ。
　ピアフは彼の死後、麻薬・アルコールに溺れ、入退院を繰り返す。多額の借金を抱え、名声も失い、どん底をさまよう。しかしそれを救ったのが21歳年下（！）のギリシャ人青年だった。ピアフは彼を歌手として育て上げ、自らも舞台に復帰する。しかし幸福はつかの間、結婚して間もなく、健康を取り戻せないまま47歳の若さで他界する。そして残された彼は、彼女が抱えていた借金を返し続け、その返済を終えると、あとを追うように自動車事故で亡くなる。「彼女の隣に葬ってください」という言葉を遺して。
　ピアフは多くの歌手を発掘し育てたことでも有名だが、恋人関係にあったイブ・モンタンもその１人。まだ若く心から愛の歌を歌えない彼にレッスンするシーンで、「愛は与えるもの。与えて、与えて、与えなさい！」と叫ぶ。
　ピアフは無償の愛を与え続けた人だった。与えたら同じだけ返してほしいと思うのが凡人の性（さが）。子どもになら無償の愛を捧げられるのかもしれないけれど･･･。いずれにしても、捨て身の愛に巡り合えるのは奇跡的なことかもしれない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（浦沢）