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堀口捨己と常滑市立陶芸研究所

堀口捨己と常滑市立陶芸研究所

    ちょうど一年前、「時代を超えて愛されている建築はないかな」と探していて、「とこなめ陶の森 陶芸研究所」に出会った。

    1961(昭和36)年建設。伊奈製陶株式会社(現LIXIL)の創業者であり、常滑町長や市長を務めた伊奈長三郎氏が、同社の株式15万株を常滑市に寄附し、その資金で建てられた。当初は「常滑市立陶芸研究所」という名前で、設計は堀口捨己。1

  さっそく見に行くと、まさに「愛されている」建築だった。案内してくれた方は、「建物も庭も当時のまま、何も新しくしていません。すべて堀口先生がデザインされたものですから、陶芸作品と同じように、形を変えることは一切やりたくない」と、おっしゃる。庭の石一つ、木の一本も変えていない、と強調された。2

 誠に申しわけなかったけれど、建築が専門でない私は建築家・堀口捨己という方についてはよく知らず、「そんなに偉い人なのね」という感じ。でも、建物を見て驚いた。

  外壁は淡い紫のモザイクタイル。しかもグラデーションが入っている。正面の扉は銀色、中央のドアノブの周囲は丸いデザインで、しかも金色。扉の左右には薄い紫のガラスブロックがはまっている。3

   ホールに入ると真っ先に目につくのは金色に光る釣り階段。見上げると、ハチの巣みたいなグレーチングの奥にカラフルな色が付けられた照明。案内していただいた1階の茶室&応接室は赤と金、展示室は一面銀色、2階の茶室&図書室は緑と銀…。

 こんな自由な色使い、見たことがない! 楽しい! と、すっかり嬉しくなってしまった。しかも少しもどぎつくなくて、しっとり落ち着いているのだから。

 階段横の打ち放しのコンクリート壁が美しい。ドアノブの周囲には、赤や緑などカラフルなプラスチックがはめられている。窓枠はサッシ。「新しいものが好きだったのね。」(心の声です。)465

 いちばん感心したのが(こんな言い方は、堀口捨己という方を知ってしまった今は使いにくいのだけれど)、2階のベランダの竹でできた縁側だ。「竹は一度も変えていません」と言う。「エッ?建ってから43年経つのに?」 座わり心地もすごくいい。ふつう、屋外に置かれた竹ってそんなに持つのでしょうか―。7

 その理由は、3.5mも張り出した庇が雨や光から竹を守ってきたからだという。建物を特徴づけているガッシリした庇は、途中から透明の素材になっていて、光が入ってベランダは明るい。なんという細やかなデザイン。椅子やテーブルの家具も堀口捨己がデザインしている。「良かったね、自由にデザインさせてもらって。楽しかったね」と、心から思った。

    設計という仕事には、さまざまな制約がある。思い通りにデザインできることは稀だし、そのために膨大な裏付けをとり、理屈を駆使して、理解と共感を求めている建築士の方々の姿を日ごろ垣間見ている。常滑市立陶芸研究所からは純粋に設計を楽しむ心、喜びを感じたのだ。

 かくして、私が書いた記事の最後の文章はこうなった。  「…細部までていねいにデザインされているのを見ると、愛情を持って、楽しんで設計する堀口氏の姿が見えるような気がする。」

  その「とこなめ陶の森 陶芸研究所」が、このたびDOCOMOMO Japan 「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選定された。それを記念して開かれたフォーラムで、私は堀口捨己先生の奥深さ、偉大さを知らされた。「何にも知らずに書いたなあ」とちょっと恥ずかしかった。建物ももう一度見た。そして、やっぱり、最初に感じた印象は間違っていないと確信した。でも、「あの文で良かったのか」と、珍しくちょっとクヨクヨしている。     (赤澤)

 

 *DOCOMOMO=モダン・ムーブメント(近代運動)の推進に寄与した建築・環境の歴史的、文化的重要性を訴え、その記録と現存建物の保存に関する活動を展開する国際的学術組織。